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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「……ふん」

「どうですか暮れたら恋瀬川のふちで夜涼みに一盃やりませんか」

「いま出した手紙で客が来るだろうと思うから、まああんたひとりでおやりなさい、貧乏ざむらいには旅籠の酒が分相応だよ」

「それはそれは」

ではまたおめにかかりますと云って笑いながら、大助は自分の部屋へ帰って来た。……とにかく新島の見張っている向うの宿を当ってみよう、なにか分るかも知れぬ、そう思いついたのだ。

部屋へ帰って、風とおしのいいところへごろりと横になった。もちろん眠るつもりはない。八十吉の手紙で客が来たら、入れ代りにぬけ出してゆく考えなのだ。……横になって手足を伸ばすと、浴後のこころよいけだるさが全身にひろがって、知らぬまについとろとろとまどろんだらしい。「やあ珍しい」という挨拶の声に、ぎょっとして眼をさますと、声はたしかに新島八十吉の部屋だった。

「どうしました」

「お呼びたてして済みません」

そういう問答を聞きながら、大助はそっと裏梯子から階下へすべりぬけた。

「府中の古城趾を見たいのだがどう行ったらいいのか」

府中はむかし常陸の国府のあったところで、平大掾氏の居館の趾が遺っているので有名だった。