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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

「つけ覘ってる討手はどうした」

「へえ……そこまで気にするというのは珍しいな、早水さんにもそんなところがあるのかね」

「おれが云うのは」と秀之進は冷やかに云った、「むやみに人のことに手を出さぬがいい、そしてもし手を出すなら、仕残しのないように徹底しなくてはいけない、その娘はもう討手に覘われる心配はないのかどうか、おれが云うのはそういう意味なんだ」

「わかりましたよ、しかしそれはそう簡単には答えられませんね」

当りますという船頭の声といっしょに、舟は小さな桟橋へとんとつき当った。葦の茂った岸辺に、宿屋の客引きとみえる男女が数人いて、がやがやと口々に呼びかけながら迎えにやって来た。秀之進は船頭に心付けをやり、なにか口早に囁くと、「大助さん、あんたはこの舟で土浦へ戻って呉れたまえ」

そう云って、自分だけひとり身軽に桟橋へとび移った。大助はあっけにとられた。

「どういうわけかね、これは、だって早水さん、そんなてはないよ」

「おれの身代りだ、たのむ」

「身代り……?」

「あの連中に土浦まで戻って貰うのさ、あんたは江戸へ帰って呉れ、これからは独りのほうが安全だ、たのむよ」