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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
たちのように生きようということ、どんな苦しいことにも負けずに本当の仕事をしようという気持をよび起こされるのだった。……幸太も庄吉もしばしば来た、幸太は相変らず口が悪くすることも手荒かったが、仕事の腕はもういちにんまえだと云われていた。
「へん腕で来い」そう云って兄弟子たちにも突っかかることが少なくなかった。芝居を見にゆくと花簪とか役者の紋を染めた手拭とか半衿などを買って来て呉れるが、決しておとなしく渡すようなことはない、そっぽを向いて「ほら取りな」などと云いながら投げてよこすのだった、そのくせおとなしい庄吉よりもおせんには彼のほうが近しい感じで、なにか頼んだりするにはいつも幸太ときまっていたのである。
幸太が杉田屋の養子にきまったのは、去年の冬のことだった。かなり派手な披露宴があり、源六やおせんも招かれた、十九という年になっても幸太は幸太らしく、巳之吉と親子の盃をするときには赤くなって神妙にしていたが、酒宴になるともう窮屈に坐っているのが耐らないらしく、膝を崩して注意されたり、しきりに立ったり、また膳の物を遠慮もなく突っついて叱られたりした。それが十三四の頃のいたずらな彼そのままで、おせんは遠くから眺め乍ら幾たびもくすくすと笑った。