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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
その頃には頬のあたりが肉づいてきたためだろう、色こそ悪いが以前の顔だちをとり戻して、まなざし言葉つきなど、あの頃の明るい人なつっこいおもんがそのまま感じられるようになった。――その調子でゆけば或いは全快したかもしれない、全快はしなかったにしても、そう急にいけなくなるようなことはなかったに違いない、しかしそれから間もなく思いがけない出来事が起こって、おもんは悲しい終りを遂げなければならなかった。
八月の十五日、月見のしたくに団子を拵えたあと、柳原堤へいって供え物の芒や、青柿などを買って帰る途中、同じ買い物帰りのおたかと偶然いっしょになった。挨拶しただけで別れようとすると、どういう積りでかいっしょについて歩きだし、例のとおりの気の好い話しぶりで、庄吉さんもこんど頭梁のところの婿になってめでたい、花嫁は家付きだけれど、年は十七で気だても優しく、縹緻も十人なみ以上だそうである、これであのひとも苦労のしがいがあったというものだ。こういうことを問わず語りに云った。
「庄さんがお婿さんになったんですって」おせんは半ばうわのそらで訊き返した、「――頭梁って、阿部川町の、住込みだっていうあの頭梁の家ですか」