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やなぎばしものがたり
柳橋物語
山本 周五郎
前編「椿 創刊号」山本周五郎一人雑誌、1946(昭和21)年7月<br>中・後編「新青年」1949(昭和24)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,300 字 · 202 页
しぜん職人も大勢はいるのでそこを中心にぼつぼつ家が建ちだしている、もちろん板壁に屋根をのせたばかりの小屋であるが、酒肴やそばきりなどを売る店もあって、ときには酔って唄うこえが聞えたりする。……勘さんと呼ばれる男の小屋もその一画にあった。これは古い板切れを継ぎはぎにした、少なからず片方へ傾がった、素人しごとと明らかにわかる雑なものだ。それにくっつけてやはりぶざまな、そのくせばかげて大きい物置が建っていて、空俵や蓆やあら繩などがいっぱい積込んである。勘さんはがたびしする戸をあけておせんを先にいれ、自分がはいるとすぐ戸をぴったり閉めた。
油障子を嵌めた小さな切窓から、朝あけのようにほの白い光がさしこんで、六帖ばかりの狭い部屋の中をさむざむとうつし出している。ふちの欠けた火桶に、古ぼけた茶棚と枕屏風のほかはこれといって道具らしい物もみあたらないが、夜具や風呂敷包などきちんと隅に片付いているし、蒲で編んだ敷畳もきれいに掃除がしてあり、見つきよりはずっと住みごこちの好い感じがみなぎっていた。
「お常、帰ったぜ」勘さんはこう呼びながら笠と合羽をぬいだ、「――ひでえひでえ、骨まで氷ったあ」