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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
しかし、その言葉は、陰で聞いていた次郎の胸には、ぴんと響くものがあった。
次郎は、そのあと、父から一応の訓戒をうけて、九時ごろ寝た。――訓戒といっても、母のそれとはまるでちがっていた。
「正しいと思ったら、どんな強い者にも負けるな。しかし犬みたいに噛みつくのはもうこれからは止せ。」
これが父の訓戒の要点であった。
次郎は、庄八がいつやって来るかと、多少気にかかりながらも、寝床にはいると、間もなく眠ってしまった。
それからどのくらいの時間がたったか、ふと、彼は茶の間から聞えて来る大きな声で目をさました。
「じゃ、何ですかい、小さい者が大きい者に向かってなら、どんな乱暴をしたって構わんとおっしゃるんですかい。」
「そうじゃないのさ。さっきからあれほど言っているのに、まだ解らんかね。」
「解りませんね。旦那のような学者のおっしゃるこたあ。」
「じゃ訊ねるが、もし次郎が噛みつかなかったとしたら、一体どうなっているんだい。」
「どうもなりゃしませんさ。」
「どうもならんことがあるものか。あいつは年じゅう喜太郎にいじめられ通しということになるだろう。傷がつかない程度にね。