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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
彼の教科書は、手垢で真っ黒になっており、頁がところどころちぎれたりしていたが、それは彼の勉強の結果ではなくて、学校の往き帰りに、意味もなく放り投げたり、なぐり合いに使ったりするからであった。
もし、母がおりおり恭一のぴんとした教科書と、彼のくちゃくちゃの教科書とを、彼の目の前にならべて、彼に厳しい訓戒を加えることがなかったら、彼はもっといろいろのことに、彼の教科書を利用したかも知れなかった。
それでも、彼の成績は決して悪い方ではなかった。五十幾人かの組で、彼はいつも五番以下には下らなかった。もし研一という、図抜けて優秀な子供さえいなかったら、彼が一番になるのも大してむずかしいことではなかったであろう。
もっとも、操行は大てい乙で、一度などは丙をつけられたこともあった。その時には、さすがの彼も、気がひけたとみえて、通信薄のその部分を指先で擦り剥がして、家に持って帰ったのだった。
それを見て、腹を立てたのは、母よりも、むしろ父であった。父はいきなり持っていた煙管で次郎の頭をひどくなぐりつけた。
お浜は通信簿が渡される日には、きまって卵焼をこさえて、次郎を校番室に迎えた。