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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

)

彼は、ぽかんとして窓の外を眺めながら、そんなことを考えていた。するとお民が言った。

「次郎、お前はよそ見ばかりしているが、お母さんの言うことがわかったのかい。お前こそすぐの兄さんだから、今度は恭一よりお前の方が気をつけてやるんですよ。」

次郎は変な気がした。何が「今度は」だと思った。「すぐの兄さん」だから一体どうだというんだ、とも思った。彼は、この頃、母の言うことがとかく理窟にあわないような気がして、以前のように聞き流しにばかりはしておれなくなっていたのである。

「それに恭一は、もう五年だし、随分おそくまで学校でお勉強があるんです。だから、帰りに俊三をつれて来るのは、次郎の役目なんだよ。」

お民の言うことはいよいよ変だった。次郎は、これはうっかりしては居れない、と思った。

「僕だって俊ちゃんよりおそいや、俊ちゃんは午までですむんだから。」

咄嗟にいい口実が次郎の口をついて出た。そして、案外母もぼんやりだな、と内心で彼は思った。

「そりゃ解ってるさ。だから、なるだけ直吉を迎えにやることにしているんだよ。」

次郎は「なるだけ」が少々気に食わなかったが、それならまず我慢が出来る、と思った。