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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

そうも考えて見た。すると、あまりいい気持はしなかった。しかし、ワシントン以上の偉い行いをしてみようという野心も、何となく捨てかねた。それに、第一、彼は、いつまでもこうして母の前に坐らされているのに、もうしびれを切らしていたのである。で、彼は、つい、

「僕、こわしたんだい。」

と、大して緊張もせずに、言ってしまった。

「そうだろう。ちゃんとお母さんにはわかっていたんだよ。」

お民の口調は案外やさしかった。

「それでどうして壊したんだね。」

お民は取調べを進めた。次郎は、しかし、その返事にはこまった。実は、彼もそこまでは考えていなかったのである。

「早くおっしゃい。お祖父さんが怒っていらっしゃるんだよ。」

お民の声は鋭くなった。しかし見たこともない算盤について、とっさに適当な返事を見出すことは、さすがの次郎にも出来ないことであった。

と、いきなり次郎の頬っぺたにお民の手が飛んで来た。

「やっと正直に答えたかと思うと、まだお前はかくす気なんだね。何という煮え切らない子なんだろう。……ワシントンはね、……」

お民は声をふるわせた。そして、両手で次郎の襟をつかんで、めちゃくちゃにゆすぶった。