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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

お民は、次郎のそうした変化を、内心喜んだ。彼女は、自分の教育の力が、やっとこのごろ次郎にも及んで来たのだと思ったのである。そこで、彼女は、この機を逸してはならないと考えて、何かと次郎に接近しようと努めた。これは次郎にとってはまことにうるさいことであった。しかし、この頃では、以前ほど叱言も言わないし、時としては、思いがけない賞め言葉を頂戴したりするので、次郎の母に対する感じも、いくらかずつ変って来た。

ただ祖母に対してだけは、次郎は微塵も好感が持てなかった。彼女は、お民とちがって、よく食物で次郎をいじめた。お民は、その点では、三人に対してつとめて公平を保とうとした。少なくとも、三人をならべておいて、あからさまに差別待遇をするようなことは決してなかった。ところが祖母は、そんなことは一向平気で、お民の留守のおりなどには、食卓の上で、わざとのように差別待遇をした。

「次郎、お前、どうしてお副菜を食べないのかい。」

「食べたくないよ。」

次郎は決して、自分の皿の肴が、兄弟の誰のよりも小さいからだ、とは言わない。

「可笑しいね。ご飯はそんなに食べてるくせに。」

そう言われると、次郎は、それっきりご飯のお代りもしなくなる。