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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
折箱の隅からは桃色の羊羹がぬるぬるとはみ出した。彼はお祖母さんの頭でもふみつけるような気がして、胸がすうっとなった。
間もなくお祖母さんが騒ぎ出した。むろん、みんなもそれにつづいて騒いだ。「次郎!」「次郎!」と呼ぶ声が、あちらからも、こちらからも聞えた。しかし、次郎はもうその時には風呂小屋のそばの大きな銀杏の樹の上に登って、そこから下を見おろしていた。
直吉の頓狂な叫び声で、みんなが畑に出て来た。ふみにじられた折箱を囲んで、さまざまの言葉が入り乱れた。
「まあ、何ということでしょう。」
お民が青い顔をして言った。俊亮はみんなのうしろに立って、腕組をして考えこんでいた。
「あれ、あれ、勿体もない。」
お糸婆さんは、いかにも勿体なさそうに、そう言って、ぺちゃんこになった折箱を拾いあげた。しかし、どうにも始末に終えないとみて、お祖母さんの顔を窺いながら、すぐまた地べたに放りなげた。
みんなはあきらめて、ぞろぞろと母屋の方に帰りかけた。
「おやっ。」とお祖母さんが銀杏の根元に眼をやりながら叫んだ。次郎の下駄をそこに見つけたのである。次郎はしまったと思った。
「直吉、竹竿を持っておいで。