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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

竜一は少し飽きっぽい性質で、一つの遊びをそう永く続けようとはしない。次郎もこの部屋でだけは、大てい竜一の言いなりになって遊ぶのである。で、間もなく、部屋一ぱいに、いろんなものが散らかった。

「まあ、やっと今朝、きれいにしてあげたばかりだのに。」

と、梯子段から、春子が白いふっくらした顔を出した。

「姉ちゃん、今日、おやつない?」

竜一は姉の顔を見ると、すぐにたべ物をねだった。

「おやつなんか、あるもんですか、こんなに散らかして。」

春子は眉を八の字によせて竜一を睨んだが、本気で怒っているようなふうには、ちっとも見えなかった。

次郎は、こんなふうに姉に叱られている竜一が、羨ましかった。

「ぶつよ、おやつ持ってこなきゃあ。」

竜一は、絵本をぐるぐると巻いて、振り上げた。

「姉ちゃんをぶったりしたら、次郎ちゃんに笑われるわよ。……さあ、お部屋をもっときれいになさい。そしたら、おやつ上げるわ。」

春子はそう言って、自分で散らかったものを片づけはじめた。

次郎は、すぐにもそれを手伝いたかった。しかし何だかきまりが悪くて、半ば腰を上げたまま、竜一の顔ばかり見ていた。