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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
上級の子供たちまでが、学校の往き帰りに、彼に媚びるようなふうがあった。由夫とその仲間たちは、いつもびくびくして彼を避けることに苦心した。
次郎は、しかし、みんなのそうした様子には、まるで無頓着なような顔をしていた。彼はともすると、むっつりして、ひとりで何か考えこんだ。それが子供達を一そう気味悪がらせた。
「打ちどころが悪ければ、死ぬところだったね。」
彼は、事件のあとで、いろんな人にそう言われたのを、おりおり思い出す。しかし彼は、そう聞いても死ぬのが怖いという気にはちっともなれない。生籬の根もとに、血まみれになってぐったりと倒れている自分の姿を想像してみても、さして痛切な感じが起るのでもない。死ぬなんて何でもないことだ、というような気がする。
だが、彼は、自分の死骸を想像すると同時に、きっと、その死骸を取り巻いている多くの人々を想像する。すると、彼の心は決して平静であることが出来ない。それは、そのなかに、父や、母や、祖母や、春子などの顔が、さまざまのちがった表情をして現れて来るからである。祖母の顔を想像すると、彼は、何くそ、死ぬものか、という気になる。