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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

「そりゃ、そうさ。」

「そうなれば、今のままでは、とてもやっていけませんわ。いよいよ土地が売れたら、小作米だって、ぐっと減るでしょう?」

「減るどころじゃない。全くなくなるさ。」

「全く? じゃ残らず売っておしまいになりますの?」

「五段や六段残したって仕様がないし、先方でも、出来るだけまとまった方がいいって言うからね。」

「まあ! それでは仏様に対して申訳ありませんわ。」

「そりゃおれも申訳ないと思ってる。しかし、こうなれば仕方がないさ。」

「仕方がないではすみませんわ。……あたし、正木の父に相談してみましょうかしら。」

「長鹿言え。……おれの不始末は、おれが何とかする。」

「だって、一粒の飯米もはいらなくて、これからどうなさるおつもりですの。」

「食うだけは、おれの俸給で、当分何とかなるだろう。」

「俸給ですって! これまでろくに見せても下さらなかったくせに。」

「これからは、みんなお前に渡すよ。」

「みんなって、いかほどですの。」

「お前、主人の俸給も知らないのか。」

「そりゃ存じませんわ。これまで何度おたずねしても、俸給なんかどうでもいいじゃないかって、いつも相手にしてくださらなかったんですもの。