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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

」

「欺しうちだって。」

「そうじゃございませんか。恭さんをちょっと連れて来いとおっしゃるから、つれて上ると、すぐにお祖母さんに連れ出さしておいて、そのあとで、こんなお話なんですもの。」

「それで、お前すねたというのだね。」

「すねたくもなろうじゃありませんか。私にも人情っていうものがございますからね。」

「すると、恭一の代りに、次郎を預るのは、どうしても嫌だとお言いなのかい。」

お浜はそっぽを向いて默りこむ。

「何というわからずやだろうね。私に乳がないばっかりにこうして頼んでいるのに、やさしく言えばつけ上ってさ。……嫌なら嫌でいいよ、もうお前にはどの子も頼まないから。その代りこの家とはこれっきり縁を切るから、そうお思い。飯米に困るなんてまた泣きついて来たって知らないよ。恭一にだって、これからはどんな事があっても逢わせるこっちゃない。」

お民は、そう言ってぴしゃりと障子をしめた。

「奥さん、そりゃあんまりです。あんまりです。」

お浜はしめられた障子のそとでわめき立てた。

「何があんまりだよ。」

「あんまりですわ。やっと恭一さんを一年あまりもお育てしたところを、だしぬけに、今度の赤ちゃんのような、あんな……」