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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
)
この疑問は、一足ごとに深まっていった。竜一や春子に遠ざかる淋しさが、それにからみついた。そして家の没落ということが、次第にはっきりした意味を持って、彼の胸にせまって来るのだった。
彼の眼のまえには、売立の光景がまざまざと浮かんで来た。散らかった品物の間から、いろんな表情をした人たちの顔が現れて来る。そして、時おり、微笑を含んだ父の顔が糸の切れた風船玉のように、彼の鼻先に近づいて来る。彼は、父の微笑の中に、ついさっきまで気づかなかった、ある淋しい影を見出した。そして、彼の気持は、いよいよ滅入るばかりだった。
「次郎、あれが北極星じゃ。」
正木の老人は、ふいに道の曲り角で立ち止まって、遠い空を指さした。
次郎は、指さされた方に眼をやったが、どれが北極星だが、すこしも見当がつかなかった。彼の眼には、まだ父の顔がぼんやりと残っていて、その顔の中に、星がまばらに光っていた。
「学校で教わらなかったかの?」
「ううん。」
「ほうら、あそこに、柄杓の恰好に並んだ星が、七つ見えるだろう。わかるな。あれを北斗七星というのじゃ。」
次郎は、やっと自分にかえって、老人の説明をききながら、一つ一つ指さされた星を探していった。