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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
」
次郎は満足しなかった。しかし、それ以上、強いて訊ねてみたい気もしなかった。そして暫くは、二人の足音だけが、闇に響いた。
「次郎――」
正木の老人は、村の入口に来たころに、やっと再び口をひらいた。
「世の中で一番偉い人はな、お前の父さんのように、どんな人でも可愛がってやれる人じゃ。父さんが、今日、いろんなものを売ったのも、困っている人たちを、これまでに沢山助けたため、金が足りなくなって来たからじゃ。お前、父さんのように偉い人になれるかの。嫌いな人が沢山あったりしては駄目じゃが。」
次郎の頭には、すぐ祖母と母との顔が浮かんで来た。そして老人の言葉を、自分に対する訓戒と考える前に、父と彼ら二人とを心の中で比べていた。
「母さんも、お祖母さんも、だから偉くないや。」
次郎は吐き出すように言った。
「そうか。……では次郎はどうじゃ?」
「僕も偉くないや。」
次郎の答は、老人の予期に反して、極めて率直だった。
「偉くなりたくないかの?」
「なりたいけれど、僕……」
「駄目かな。」
「だって、僕……乳母やと一緒だといいんだがなあ。きっと偉くなれるんだけれど……。」
老人はぴたりと歩みをとめた。