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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

やっぱり、ついて行くのはいやだ。

「どうだい、一緒に行くか。」

「…………」

「やっぱり、ここにいたいのか。」

「…………」

「どうした? 默ってちゃわからんが。」

「…………」

「母さんは、お前をつれて行きたいって言うんだ。」

次郎は、伏せていた眼を、ちょっとあげて父を見た。しかし、返事はしない。

「ところで、お祖父さんは、お前をこちらにおきたい、とおっしゃるんだ。」

次郎は、正木の老人の方をちらりと見た。が、またすぐ眼を伏せてしまった。

「困ったな。そうぐずぐずじゃあ。……だが、まあいい。今夜は、みんなこちらに泊るんだから、明日の朝までによく考えておくんだ。いいか、お前の好きなようにしていいんだからな。」

俊亮は、そう言って縁側を去ろうとした。すると、次郎が、

「父さんは、どっちがいい?」

俊亮は、予期しなかった問に、ちょっとまごついた。そして、しばらく次郎の眼を見つめていたが、

「父さんか。父さんはどうでもいい。次郎の好きなようにするのが一番いいと思っているんだ。」

次郎は、首をかしげて、右手の指先で、縁板をこすりはじめた。十秒あまりの沈默がつづいた。蚊が一疋、弱々しい声を立てて、次郎の耳元で鳴いた。