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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
次郎もそうした中にまじって擂古木を廻すのであったが、それがちょうど日曜日ででもあると、彼は終日厭きもしないで坐り通すのであった。
「本田の坊ちゃんは、何て辛抱強いんでしょう。」
「全く珍しいお子さんだよ。」
「坊ちゃん、ちっと遊んでおいでよ。」
もし、こうした声が、一座の中から聞えて来ようものなら、次郎はいよいよ嬉しくなって、あくまでも頑張りつづけようとするのであった。
ただ、次郎にとっての困難は、灰汁入れの瞬間だった。この大事な瞬間になると、さすがに彼の細腕では、どうにもならなかった。で、彼は、その時になると、いつも隣の誰かに擂古木を廻して貰うことにした。しかし、それは決して彼の恥辱にはならなかった。と、いうのは、ごく年上の婆さんたちや、若い娘たちの中にも、次郎と同じように、灰汁入れの時に人手を借りる者が、必す何人かは居たからである。
次郎の野外における楽しみも、屋内のそれに劣らず、変化に富んでいた。彼は、男衆に教わって、天竺針をかけることや、どうけを沈めることを知った。日暮にかけておいた天竺針には、朝になるときっと鰻や鯰がかかっている。どうけというのは、舌のついた目のあらい竹籠の底の部分に、焼糠をまぜた泥をぬり、それを、この附近によくある溜池の浅いところに沈めておいて、鮒や鯉を捕るのであるが、これも日暮