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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

しかし、自分が全然知りもしないことを、いつもの通り誠吉のために弁解するのも変だ。また、かりに弁解するとしても、どう弁解すればいいのか、誰のところに持っていけばいいのか。これまでは叱り手が必すお延だったので、言い出しやすかったが、謙蔵に直接では、すこし勝手がわるい。――次郎はそんなことを考えているうちに、ますます謙蔵が悪い人のように思われて来た。

「次郎ちゃん、あやまっておくれよ。」

誠吉は、口に指をくわえながら言った。次郎は、しかし、誠吉の弱々しい言葉をきくと、一層力みかえった。

「何だい? あやまることなんか、あるもんか。」

「だって、僕、見つかったんだもの。」

「見つかったって、何だい。久ちゃんだって、源ちゃんだって、みんな落書きしてらあ。」

誠吉は、それはそうだ、と思った。しかしそう思っただけで、心はやはり落着かなかった。

「あやまらないと、僕母さんにも叱られるんだよ。」

「だって、叔母さん、まだ知らないだろう。」

「もう知ってるかも知れないよ。」

「叔母さんにも、言いつけるだろうか、あいつ。」

誠吉は、次郎の「あいつ」と言ったのに、眼を見張った。次郎は、しかし、平気で言いつづけた。