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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

とたんに火薬は一度に爆発した。音は高くはなかった。それはぼっとした夢のような音だった。しかし、鉢の縁とすれすれに顔を近づけていた次郎は、その音にはじかれたように、草の上に突っ伏してしまった。

「次郎ちゃん、次郎ちゃん。」

誠吉の緊張した、しかし、人を憚るような声が、次郎の耳元できこえた。次郎は気を失っていたわけではなかった。しかし、その声をきくまでは、彼は泥水の底に沈んでいるような気がしていた。

起きあがって眼を開けると、まつ毛がじかじかした。顔がほてって、皮膚が変に硬ばっていた。彼は誠吉を見ながら、心配そうに訊ねた。

「僕の顔、どうかなってる?」

「まっ白だい。煙がくっついているんだろう。」

次郎はそっと手で顔を触ってみた。ぬるぬるしたものがくっついているような気がする。さほどひどくはないが、ぴりぴりした痛みを覚える。

「早く水で洗っておいでよ。」

誠吉が言った。

次郎は離室や座敷の方をそっとのぞいてから、池の水を両手で掬って、顔にもっていった。が、それと同時に彼は悲鳴に似た声をあげ、再び築山のかげに走って来た。彼の顔は、ところどころ鮪の刺身のように真赤だった。