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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
そしてお民と眼を見合わせた。お民はお祖母さんからすぐ視線を転じて次郎を見たが、やはり口を利かなかった。
次郎はすぐ一切を悟った。
(みんなは自分がお祖父さんにあやまって出るのを待っているのだ。それは彼らの間に、もうすっかり話し合いが出来ているらしい。)
そう気がつくと、彼はすぐ立ち上った。むろん彼はこれまで、叱言を言われない先に自分から進んで誰にも謝罪をした経験がなかった。だから、ちょっと勝手がちがうような感じだった。しかし彼は、もう一刻もぐずぐずしている時ではないように思ったのである。
お祖父さんは、座敷の縁で、謙蔵を相手に何か話していた。次郎は思いきってそばに行き、窮屈そうに坐った。そして何にも言わないで手をついて、お辞儀をした、すると、お祖父さんはすぐ言った。
「ほう、あやまりに来たのか、それでいい、それでいい、それでいい気持になったじゃろう。どうじゃ。」
次郎の眼からは、ぽたぽたと涙が縁板にこぼれた。
「泣くことはない。泣くと、繃帯がぬれるぞ。それに、顔がゆがんでしまったらどうする。はっはっはっ。」
お祖父さんの笑声につれて、謙蔵も笑った。次郎は、しかし、いつまでもうつむいて、鼻をすすっていた。