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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
次郎は、古い校舎の片隅の校番室の様子を思い出しながら、それをきいた。本田の引越しの理由や、次郎とお民が正木に来ているいきさつなどは、ごくあいまいにしか話されなかった。お祖母さんは、
「子供がだんだん大きくなって、中学にはいるようになると、何かにつけ町に住む方が都合がよさそうだよ。」
とか、
「次郎は、お前の手をはなれてから、半分はここで育ったようなものだから、お祖父さんが手放そうとなさらないのでね。」
とか、
「お民の病気には、何といっても田舎の空気がいいのだよ。」とか言って、すべてをぼかしてしまっていた。しかしお浜には何もかも推察がついたらしく、彼女はおりおり溜息をついて、次郎の顔を見た。次郎はそのたびに、何か知ら窮屈な感じがした。
双方の話が一段落ついたころに、お民はふとお浜の方に顔をむけ、しみじみとした調子で言った。
「お浜や、わたしお前に会えて、すっかり安心したよ。」
「まあ勿体ない――。」と、お浜はもうあとの言葉が出なかった。お民はしばらくしてから、
「次郎も大きくなったでしょう。」
「ええ、ええ。さっきもびっくりしたところでございます。」
「あたし、この子にも、お前にも、ほんとうにすまなかったと思うの。