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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
お民の右側に恭一、左側に俊三が寝た。次郎の寝床は俊三のつぎに並べて敷かれてあった。
次郎は永いこと眠れなかった。そのうちに、そろそろ小便を催して来た。
お浜の家では、寝しなには、きっと便所に行く習慣だったが、今夜はいろいろと事情がちがっていたために、ついそれを怠っていたのである。彼は苦しくなるにつれて、多少それを悔いた。しかし、起き上って便所に行く気にはなれない。ここの便所は廊下づたいで少し遠すぎるし、それに、どこかで鼠がかさこそと音を立てていて気味がわるい。
そのうちに、彼はふと妙なことを思いついた。そしてぱっちりと眼をあいて母の方を覗いて見た。蚊帳の中は真っ暗で見えないが、よく寝ているらしい。彼は寝返りをする真似をして俊三によりそった。そして永いことこらえていた小便を、その脇腹のあたりに少しずつ放射した。
放射が終るとまたもとの位置にかえって、心地よくぐっすりと眠ってしまった。
どのくらい眠ったのか、はっきりしなかったが、彼は、だしぬけにお民に両足を掴まれて蚊帳の外に引き出されたので、眼がさめた。部屋の中はまだ真っ暗だった。彼はさかさにつり下げられているような気がして、眼を覚ました瞬間は、まるで世界の見当がつかなかった。