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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

「ここはお前の生まれた家なんだよ。」

説教は、彼が昨夜来何度も聞かされた言葉で始まった。

「ここの家はね、こんな田舎に住んでいても、れっきとした士族なんだよ。」

これも次郎が聞きあきるほど聞いた文句であった。もっとも士族が何だかは、今だにはっきりしない。

「士族の子ともあろうものが、何という情ない真似をするんだよ。……強情で食べないつもりなら、いっそ二日でも三日でも食べないでいたらいいじゃないの。ご飯時には寄りつかないで、竹藪の中に寝たりしているくせに、こっそり忍んで来て手づかみで食べるなんて、思っただけでも、このお母さんはぞっとするよ。」

次郎は、まだ指先にくっついている飯粒を、どう始末していいかわからないで、もじもじと手を動かした。

「それ、その手をご覧、それを見たら、ちっとは自分でも恥ずかしい気がするだろう。」

次郎は何と思ったか、ぴたりと手を動かすのをやめてしまった。

「お前はね……」

と、急にお民の声がやさしくなった。

「丁度八月十五夜の月が出る頃に生まれたので、今にきっと恭一よりも俊三よりも偉くなるだろうって、お父さんはじめ、みんなでおっしゃっているんだよ。