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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

次郎は鮭包みを下げたまま、しばらく混雑の中にしょんぼりと立っていた。しかし、いつまで待っても、誰も言葉をかけてくれそうにない。

心に描いて来たものが、すっかりけし飛んでしまった。彼はたまらなくなって、わっと泣き出した。

「おや。」

「まあ。」

みんなが一せいに仕事をやめて、次郎の方を見た。

「次郎じゃないか。いつ来たんだね。」

と、お祖母さんが、手についた粉を払いながら、立って来た。同時に、従兄弟たちも振向いて、みんな呆れたような顔をしている。

次郎は泣きつづけた。

「まさか一人で来たんじゃあるまいね。母さんと一緒かい。」

次郎はやはり泣くだけである。

「まあどうしたんだね、この子は。……おや、包みなんか下げて……何を持って来たのかい。」

次郎は泣きながら、包みを差出した。お祖母さんはそれを受取りながら、

「泣かないで言ってごらん。一人で来たのかい……え?」

次郎はやっとうなずいたが、泣声は前より一層高くなった。お祖母さんは包みを解きながら、

「ほんとに、どうしたというんだろうね。……おや、手紙がはいってるね。まあ、お前を一人でお使いによこしたのかい。かわいそうに。