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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

「僕、乳母やの家に行っちゃいけないの? 乳母やのうち、一等好きなんだがなあ。」

お浜は次郎の肩にかけていた手をぐっと引きしめて、ぼろぼろと涙をこぼしながら、

「駄目、今は駄目なの。……でも来年は次郎ちゃんも学校でしょう。そしたら、毎日逢えるんですよ。だから、……」

次郎はその言葉を聞くと、突っ放すようにお浜の手を押しのけて、立ち上った。そして、探るような視線を彼女に投げた。彼は、ふと、毎日学校に通っている、恭一のことを思い出したのである。

お浜は、次郎がなんでそんな真似をするのか解らなかった。で、すこし変に思いながら、手をさし伸べてもう一度彼を引きよせようとした。しかし次郎は、人に慣れない小猫のように、眼だけをお浜に据えて、じりじりとあとじさりした。

「どうなすったの、次郎ちゃん。学校がおいや?」

お浜はそう言って立ち上ると、無理に次郎をつかまえた。そして再び蓆の上に坐って、彼を自分の膝に腰かけさせた。

「ねえ、次郎ちゃん。」

と、次郎の耳に口をよせて、

「学校に行かないじゃ、偉くなれませんのよ。なあに、勉強だって何だって、恭ちゃんなんかに負けるもんですか。