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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
すると今度は次郎がまごついた。こんな特別な心づかいを平気で受けるようには、彼の心はこのごろ少しも慣らされていなかったのである。彼は盗むように、お浜と従兄弟たちの顔を見た。そしてお浜が与えたものに箸をつけるのを躊躇した。
「坊ちゃんは何時お帰り? 今日? 明日?」
お浜は、みんなの気をそらすつもりで、そんなことを言ってみた。しかし、気をそらす必要のあった者は、お浜自身と次郎との外には誰もいなかった。従兄弟たちはお浜が自分のお副食を次郎の皿にわけてやったのを見ながら、ほとんどそれを気にとめていないようなふうであった。
「僕、もっと泊っていきたいんだがなあ。」
そう言って、次郎はきまり悪そうに、皿に箸を突っこんだ。
「お正月まで泊っておいでよ。ね、いいだろう。」と、久男が言った。――久男は、一番年上の従兄弟である。
「でも、お正月はおうちでなさるものよ。」
と、お浜はいそいで久男の言葉を打消し、何かちょっと考えるふうであった。
「どこだって同じだい。ねえ、お祖母さん、次郎ちゃんはお正月まで泊ってもいいだろう。」
「そうねえ……」
と、お祖母さんは、隣のちゃぶ台から、なま返事をした。