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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页

青空文庫

」

「ともかく、誰か早くお医者を迎えて来なさい。」

これは正木のお祖父さんの声であった。

次郎は、手首と額とに、取りあえず白木綿を捲きつけられた。

「おや着物がぐしょぐしょになっていますが、どうなすったんでしょう。」

お浜は彼を抱えて座敷の方に運びながら言った。

「そうかな、気がつかなかった。……大方倒れたはずみに発射したんだろう。」

俊亮は、何でもなさそうに言って、笑いながら、次郎を見た。みんなも笑った。次郎はまだ泣いていた。

ただお民だけが、きっとなって俊亮を睨んだ。

それから次郎は、汚れた着物を辰男のと取りかえて貰って、しずかに蒲団に寝かされた。

医者の見立てでは、手首の傷も大したことはなかった。ただ、障子の骨が突き刺さったのだから、傷あとは案外大きく残るかも知れないと言った。

医者が帰ったのは、十二時ごろだった。

俊亮は自分から泊っていくと言い出した。お浜はお民の顔色を窺っていたが、正木の老夫婦に勧められて、これも泊ることにした。本田のお祖母さんは、「次郎を預けたまま帰ってしまってはすまないが、幾人も泊りこんではなおさらすまない。」といったような意味のことを、くどくどと繰返した。