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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
01 第一部
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,223 字 · 320 页
次郎はお浜の家で物を食べることをお民に固く禁じられていた。このことは入学の当日、お浜にも厳しく、言い渡されたことであった。しかし、お浜も次郎も、そんなことはまるで忘れてしまっているかのようであった。
「何も飯代をいただこうというのではないし。」
これがお民から文句が出た時の用心に、お浜が考えておいた理窟であった。
次郎の帰りが遅くなるので、とかく迷惑するのは直吉だった。
次郎はすでに、本田と正木と学校との間を、一人で自由に往来することが出来たし、それに、時としては菜種畑の中に、小一時間も押しづよく隠れていたりするので、直吉は、迎えに来ても、捜しあぐんで、ひとりで帰ることが多かった。
しかし、珍しいことには、次郎は、まだ一度も校番室に泊りこんだことがなかった。それは、お浜が、お民に対する意地から、日暮近くなると、進んで次郎を帰すことにつとめたからだった。次郎は、そんな場合、どうしても家に帰るのが嫌だと、きまって正木の家に行くことにした。そして一度正木の家に行くと、大てい五日や一週間は根がついて、そこから学校に通うのであった。正木では、初めのうちこそ心配もしたが、たび重なるにつれて、それを気にとめる者さえいなくなった。