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さんごくし

三国志(八)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《三国志(八)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N1,點詞查義。

N1 · 挑戰 · 新字新假名 · 195,604 字 · 391 頁

青空文庫

などと小我の快感を空想していた。

そのうちに、約束の十日近くである。物見の者が、

「兵数はよく分りませんが、蜀の兵がちらちらこの先の谷間に出没しているふうです」

と、告げて来た。

「たかの知れたものだろう」

と、曹真は秦良という大将に約五千騎ほど授けて、谷口をふさがせ、

「十日の期が満つれば、賭はわが勝ちとなる。だからあと二日ほどは、旗を伏せ鼓をひそめ、ただそこを塞ぎ止めておれ」と、命じた。

秦良は命令を守っていたが、広い谷あいを覗くと、四山の水が溜るように、刻々と蜀の軍馬がふえてくる。しかも侮りがたい気勢なので、「これは」と、急に自分のほうからも、おびただしい旗風を揚げて、ここには備えがあるぞと、堅陣を誇示した。すると蜀勢は、その夜から翌日へかけて、続々と退いてゆく様子である。さては恐れをなして道を変更したなと見たので、秦良は、この図をはずすなと、にわかに、追撃をかけた。

谷道を縫って五、六里も駆け、ひろやかな懐へ出た。けれど蜀兵はどこへ去ったか影も形もなくなった。秦良はひと息入れて、

「何だ、容態ばかり物々しくやって来て、みえほどもない腰抜け軍隊だ」