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さんごくし
三国志(八)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《三国志(八)(さんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N1,點詞查義。
N1 · 挑戰 · 新字新假名 · 195,604 字 · 391 頁
二
「退けや、退けや」
と、司馬懿も今は、胆も魂も身に添わず、逃げ奔る一方だった。
するとまたまた、行く手の闇の曠野に、颯々たる旗風の声と車輪の音がしてきた。仲達は驚倒して眼をみはった。車上の人はたしかに孔明であり、左右二十余人の黒衣白人の影も、北斗七星の旗も、初めに見たものと寸分の相違もない。
「いったい孔明は何人いるのか? この分では蜀軍の数も量り知ることができない」
彼と数千の鉄騎は、ほとんど、悪夢の中を夜どおし駈け歩いたように疲れ果てて、朝頃、ようやく上※の城へ逃げ帰ってきた。
その日、ひとりの蜀兵が捕虜になって来た。調べてみると、青麦を刈って鹵城へ運送していた者だという。
「さてはあの隙に、多量の麦を刈り取られていたか」
とさとって、仲達がなおその兵を自身で吟味してみると、昨夜の怪しい妖陣のうちの一陣はたしかに孔明の車であったに違いはないが、あと三陣の隊伍と車は、姜維、魏延、馬岱などが偽装していたもので、孔明の影武者であったに過ぎないということが分った。
「ああそれで縮地の法の手段が読めた。同装同色同物の隊伍を四つ編制しておいて、追われて逃げる時は、曲り道の山陰や、丈高き草の道などで、近きが隠れ、遠きが現われ、いわゆる身代りの隠顕出没によって、追う者の眼を惑わし惑わし逃げていたのだ。