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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens

Aozora Bunko

七

眼に見える彼の体は、仮の相でしかなくなっている。

おそろしい心力が、身をもたましいをも、まったく焼き尽くしていた。武蔵は今や、肉体ではなくて、燃え熾っている生命の炎だった。

――と、突然!

わあっッと、三十六峰がいちどに谺をあげた。山崩れのような喊声なのだ。それは遠く離れて見ていた人間も、武蔵の前にひしめいていた吉岡勢も、同様に大地から跳び上がって、その体の弾みから思わず出した声だった。

――た、た、た、たッ。

武蔵が、不意に、山裾から里へ向って、野猪のように駈け出したからである。

もちろん。

七十名からの吉岡勢は、それに手を束ねていたわけではない。

「それッ!」

真っ黒になって、武蔵へ追いすがり、追いつきざま、五、六名が、

「――かっッ」

「今になって!」

組まんとするばかり打つかって行くと、武蔵は身を伏せ、

「ちいイッ」

右刀で、彼らの脛を薙いだ。そして敵の一名が、

「こんな奴ッ」

上から撲り落してきた槍を、カーン、宙へ刎ねとばすと共に、乱れ髪の一すじ一すじまでが、皆、敵へ向って闘って行くかのように逆立って、

「――ちッ、ちッ、ちいっ」

右剣左剣、右剣左剣――とこもごもに火となり水と走って、食いしばっている武蔵の歯まで、口を飛び出して噛みついて来そうに見えた。