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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens
五
六部は慌てて、
「おのれっ」
追いかけながら、樫の杖を、風へ乗せて又八の影へ投げた。
又八は、首をすくめた。杖はうなりを持って、耳のそばを通って行く――。これは堪らないと思ったらしい、又八は、いよいよ体を弾ませて逃げた。
外れた杖を拾い取って、六部も宙を飛ぶのだった。そして頃合を計ると、もいちど杖を闇へ抛った。
だが又八は、からくもその杖の先から二度まであぶないところを遁れた。総身の毛あなから酒の気が一瞬に消えて失くなっていた。
五
焦けつくように喉が渇く。
どこまで逃げて来ても、六部の跫音がうしろから聞える気がするのだ。はや六条か五条に近い町ならびである。又八は胸をたたいて、
「うう、ひでえ目に遭った。……もう来まい」
そこで、横町のせまい路地を覗きこんだのは、逃げ道を考えているのではなく、井戸を捜しているらしい。
その井戸が見つかったとみえ、又八は、路地の奥へはいっていった。細民街の中にある共同井戸である。
釣瓶を上げると、又八は、それへ、かぶりつくようにして水を飲んでいた。ついでに釣瓶を下において、ざぶざぶと顔の汗を洗う。
「……なんだろう、あの六部は」