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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens
五
おかねも元のままはいっているよ。なにか要る時には、そのおかね、先生が費ってもかまわないよ」
五
「ありがとう」
武蔵は、伊織へそういった。
他愛もない言葉ながら、伊織の気持は欣しいものだった。彼は自分の侍いている先生が、いかに貧しいかを、子供ごころにも常に案じているふうなのだ。
「では、借りておくぞ」
おしいただいて、武蔵は、彼の巾着を懐中に預かった。
そして歩きながら思うには、伊織はまだ子供だが、幼少から、あの痩せた土と藁の中に生れ、審さに生活の困窮を舐めてきたので、童心の中にもおのずから「経済」というものの観念が、つよく養われている。
それに較べると、武蔵は自分ながら、自分には「かね」を軽視し、経済を度外視している欠点があることに気づく。
大きな経策には関心をもつのであるが、自己の小さい経済には、ほとんど無関心なのである。そして幼い伊織にさえその「私の経済」には、いつも心配を煩わしている。
(この少年は、自分にはない才能を持っているようだ)
武蔵は、馴じむほど、伊織の性格の中に、次第に磨かれてくる聡明をたのもしく思った。それは彼自身にもまた、別れた城太郎にもないものだと思った。