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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens
十一
――殊にその対象の人がお通である場合において、彼には、それに克てそうな自信もないし――また、彼女の一生というものを考えずに、彼女を考えることもできなかった。
しくしくと泣いている城太郎に、
(わかったか……)
と、武蔵のことばが耳のそばに聞えていたので、城太郎は肱で顔を抑えていたが、ふとその泣き顔を上げると、もう彼の前には靄のこめた厚い闇しか見えなかった。
「――あッ、お師匠様っ」
ばたばたと城太郎は、長い築地の角まで走って行った。
十一
大声あげて、城太郎は叫ぼうとしたが、叫んでも無駄なことが分っているので、彼は、わっと泣きながら、築地に顔を押し当てた。
「…………」
いいことと信じてやった幼い一心が、大人の思慮によって覆されると、それに服従はしても、理窟は分っても、口惜しくて口惜しくてたまらないらしいのである。
泣くだけ泣いて、声がつぶれると、肩で波打ちながら、まだしゃくりあげていた。
――と。
館のお下婢の女でもあろうか、今、どこからともなく戻って来て、下部門の外に佇んだ人影がある。ふと、暗がりの嗚咽が耳にふれたのであろう、被衣のひさしを向けて、弱々と近づいて来ながら――