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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens
二
二
武蔵は、伊織の悧発なのに愕いたが、考えてみれば彼が悧発なのではない、自分が鈍なのである。
天候の悪兆候をみたら、すぐ食物の準備を考えておくことは、野に住む者の常識で、伊織は、嬰児の時から、こういう場合を、何度も、経験しているにちがいない。
それにしても、牛の背から下ろした食物は、少ないものではない。莚を解き、桐油びきの紙を解いて伊織が――
「これは粟、これは小豆、これは塩魚――」
と、幾つもの袋をならべ、
「先生、これだけあれば、ひと月やふた月、水が退かなくっても、安心だろ」
と、いう。
武蔵の眼には涙が溜った。健気よとも忝いともいいようがない。自分はここを開拓して、農土に寄与するものと、ただ気概のみを高く抱いて、自分の餓えるのを忘れていたが、その飢えは、この小さい者に依って、からくも凌がれているのだった。
だが、自分たち師弟を、狂人呼ばわりしている村の者が、どうして、食物を施してくれたろうか。村の者自身さえ、この洪水では、自身の飢えにおののいているに違いない場合に。
武蔵が、その不審を糺すと、伊織は事もなげに、
「おらの巾着を預けて、徳願寺様から借りて来た」