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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens
八
第一の機を、武蔵はこうして掴んだ。第二の機は、しきりと今、伝七郎の方から誘うのであった。その誘いに乗せて出るのもまた戦法だし、外らして自身から機を作るのもまた戦法である。勝敗の相のわかれ目は、ちょうど水に映っている月影に似ている。理智や力を過信して的確にそれを掴もうとすればかえって生命を月に溺らせてしまうにきまっている。
八
「出遅れたうえ、まだ支度が整わぬのか。ここは、足場がわるい」
焦立つ伝七郎へ、武蔵は飽くまで落着きはらって、
「今参る」
と、いった。
怒れば、必ず敗れる端をなすことを、伝七郎も知らないではない。だが、まるで故意のような武蔵の態度を見ていると、そういうふだんの修得と感情がばらばらにならずにいられないのである。
「来いっ! もっと広場のほうへ! お互いに、名はいさぎよくしておきたい。姑息な振舞い、卑怯な立ち合い、そんなものへ、唾して生きてきた吉岡伝七郎だっ。――武蔵っ、仕合わぬまえに、怯気を抱くようでは、伝七郎の前へ立つ資格はないぞっ、降りろそこを!」
ようやく彼が、呶鳴りつづけ出すと、武蔵はニッと歯を少し見せた。
「なんの、吉岡伝七郎の如き、すでに去年の春、拙者が真二つに斬っている! きょう再び斬れば、おん身を斬ることこれで二度目だ!」