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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens
二
又八は、樹の上を仰いで、眼をみはった。梢の上には、チラと人影がある。星明りを透かしてみると、女らしい美麗な袂と白い顔が、細やかな松の葉の中におののいているのである。
二
犬に追われて樹の上へ逃げ登ったのか、それとも、樹の上にかくれていたために、野良犬が怪しんでその下を取り巻いたものか、そこのところは明瞭ではないが、どっちにしても、梢に顫いている影は、年若い女であることに間違いない。
「――叱ッ! 畜生ッ。――叱いッ」
又八は、犬の群れへ、拳を振りあげてみせた。
「こん畜生」
二つ三つ石も投げた。
四つ脚のまねをして唸れば、どんな犬も逃げるとかねがね聞いていたので、又八は、獣のように四つ這いになって、
「ウウー」
と唸ってみたが、ここの犬たちには、なんの効き目も顕れない。
もっとも、相手は三疋や四疋ではないのだ、まるで深淵に群れている魚紋のような無数の影が、尾を振り、牙を剥いて、樹の皮が裸になるほど、顫いている空の女へ向って、吠え猛っているのである。又八のごときが、遠くから四つ脚の真似をして見せたところで、この猛犬の群れには問題にされないわけだった。
「こいつら!」