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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens
四
「おう、連れもない、女童と見くびって、これへ誘拐して来たに違いあるまい。――出せっ、隠した者を」
「な、なんだとッ」
権之助の体から突然、四尺余の棒が噴いて出た。――棒が手か、手が棒か、その迅いことは眼にもとまらない。
四
武蔵は避けるより仕方がなかった。驚くべきこの男の練磨と技の体力を前にしては。
で、一応、
「おのれ、後に悔ゆるな」
警告を与えておいて、自分は数歩跳び退いたが、不可思議な棒の使い手は、
「なにを、洒落くせえ」
と喚きながら、決して一瞬の仮借もするのではなかった。十歩退けば十歩迫り、五歩躱せば五歩寄ってくる。
武蔵は相手から跳び開く間髪ごとに、二度ほど、刀の柄へ手をやりかけたが、その二度とも、非常な危険を感じて、遂に、抜き放つ遑すらもない。
なぜならば、手を柄にかける一瞬でも、敵の前に肘を曝す隙となるからである。敵によって、そんな危険は感じない場合と、戒心する場合があるが、当面の相手が振りこんで来る棒の唸りは、武蔵が心で用意する行動の神経よりは遥かに迅速で、それへ無謀な勇をむりに奮って、
(この土民めが何者ぞ)
と、敢て誇れば、当然、棒の一撃にのめるであろうし、焦心りを持つだけでも、呼吸にうける圧迫から、身体のみだれをどうしようもなくなってしまう。