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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens
草分の人々
一
――喋舌るとすぐ、その首を捻じ切ってしまうぞよ」
草分の人々
一
本位田又八の母が、江戸表へ来たのは、その年の五月末頃であった。
気候は、めっきり暑くなっていた。ことしは空梅雨か、ひと粒の雨も見えない。
「こんな草原や葭の多い沼地へ――なんでまたこんなに家が建つのじゃろ?」
江戸へ来て、彼女の第一印象は、そんな呟きであった。
京の大津を出てから約二ヵ月近くもかかって、彼女はやっと今、着いたのである。道は東海道をとって来たものらしく、途中では、持病やら信心詣りやら、道草も多いので、都をば霞とともに出でしかど――という歌どおり遥けくふり返られる。
高輪街道には、近頃植えた並木や、一里塚もできていた。汐入から日本橋へゆく道は、新しい市街の幹線道路なので、わりあいに歩きよいが、それでも、石や材木をつんだ牛車がひっきりなしに通るのと、人家の普請や、埋地の土運びなどで、足もとも悪く、雨もふらないので、濛々と、白い埃が立っている。
「――ア、なんじゃ?」
彼女は、目角を立てて、普請中の新しい民家の中を睨めつけた。
中で笑う声がした。
左官屋が壁を塗っているのである。こての先から飛んできた壁土が、彼女の着物をよごしたのであった。