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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens

Aozora Bunko

巨腕を持った名匠の力量がそこに潜んでいるというほかはない。肉声で現しがたい無言のことばが、沁々と心へ浸み入ってくるのである。それを受け容れる感受性を、武蔵が人いちばい持っていることも事実である。

(誰だろう、この作り人は)

手に持つと離せない気のするような触覚なのだ。

武蔵は、訊かずにはいられなかった。

「光悦どの、私には、今もいったとおり、陶器のことなど、皆目わからないのですが、この茶碗は、よほど名工の作ったものでしょうな」

「どうして?」

光悦のことばは、顔のようにやわらかい。厚ぼったい唇ではあるが、女みたいな愛嬌をこぼすことがある。少し眼じりは下がっているが、魚のように切れ長で、威があって、たまたま、揶揄するような皺もよせる。

「――どうしてといわれると困るのですが、ふと、そんな気がするのです」

「どこか、何かを、お感じになったのでしょう、それを仰っしゃって下さい」

と、光悦は意地がわるい。

「さあ?」

武蔵は考えて、

「――では、いい尽くせませんが、いいましょう。この箆ですぱっと切ってある土の痕ですが……」

「ふむ!」

芸術家の持ち前を光悦も持っていた。