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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens

Aozora Bunko

五

「――おう」

と、返事の聞えたのは裏口のほうで、やがてのそっと、一人の男が、茶店の横から顔を出して、

「なんだい、婆さん」

と、いった。

老婆はすぐ乳の瓶をその男の手へ渡した。けれど男は、その瓶を持ったまま、老婆の話を聞こうともしないし、乳をのぞいて見るでもない。

放心した人間のように、眼を武蔵の頬へ射向けているのだった。武蔵もまた凝然として、その男を見ている――

「……お、おうっ」

どっちからともなくこう呻いた双方の足が前へ出ていた。

そして顔と顔とを接し合って、

「又八じゃないかっ!」

武蔵がさけんだ。

その男は、本位田又八だったのである。

変らない昔の友の声に耳を打たれると、又八もわれを忘れて、

「――やっ。武やんか!」

と、彼もむかしの呼び慣れた名をもって呶鳴った。武蔵が手を伸ばすと、又八も、うつつに抱えていた乳の瓶を思わず手から落して抱きついた。

瓶は砕けて、白い液が二人の裾へ刎ねかかった。

「ああ! 何年ぶりだろう」

「関ヶ原の戦――あれからだ! あれから会っていないのだ!」

「……すると?」

「五年ぶりだ。――おれは今年二十二になったから」

「わしだって、二十二だ」