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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens
「そこへ、拙者までが、又候同様なことをいって来たので、それでお断りなされたのか」
「あなた様の場合は、また違いまして――実は先ほど、お腰の物を見たせつなに、余りにひどい刃こぼれと、むらむらと、拭いきれない無数の精霊の血脂に――失礼ながら、益なき殺生をただ誇る素牢人が――といやな気持に打たれたのです」
耕介の口を藉りて、光悦の声がそこにしているように、武蔵は、さし俯向いて聞いていたが、やがて、
「おことばの数々、よう分りました。――なれどお案じ下さるまい、物心ついてより持ち馴れている刀なので、その刀の精神を特に考えてみたこともなかったが、今日以降は、よく胸に銘じておきまする」
耕介は、すっかり気色を好くして、
「ならば、研いでさし上げましょう。いや、あなた様のような侍のたましいを、研がせていただくのは研師の冥加と申すもので」
と、いった。
四
いつか燈火が点っている。
刀の研を頼んで、武蔵が戻ろうとすると、
「失礼ですが、代りの差料をお持ちでござりますか」
と、耕介がいう。
ないと答えると、
「では、たいして良い刀ではございませんが、一腰、その間だけ、宅にある物をお用い下さいまし」