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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens
「ええ、待ったがいい」
と、婆は、死骸の魅力にひきつけられていた。
「ここまでして、かんじんな首級を取らずに行ってよいものか。なにを証拠に、故郷の衆へ、お通を成敗したと証拠だてることができよう。……待て、今わしが」
「あ」
又八は、眼をおおった。
お杉は木の小枝を膝で踏み敷いて、死骸の首へ刃を当てようとするのだった。又八には、見ていられなかった。
――と、突然、婆の口から意味のわからない言葉が走った。よほど驚いたものらしかった。持ち上げていた死骸の首を手から離して、後ろへ蹌めくと共に腰をついて、
「ちごうた! ちごうた!」
手を振って、起とうとするのであったが、起てないのである。
又八も、顔を寄せて、
「何が? 何が?」
と、吃った。
「これを見い」
「え」
「お通ではないわ! この死骸は乞食か、病人か、男であろが」
「あっ、牢人者だ」
じっと、死骸の横顔や風体をながめて、又八はなおさら驚きを加えた。
「変だな、この人間をおれは知っているが」
「なんじゃ、知人じゃと」
「赤壁八十馬といって、おれはこいつに騙されて、持金を巻き上げられたことがある。生き馬の眼を抜くようなあの八十馬が、どうしてこんなところにへたばっていたのだろうか」