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みやもとむさし

宮本武蔵(五)

吉川 英治

Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens

Aozora Bunko

怒らぬといいながらも、武蔵の眼は、決して、生やさしい光ではなかった。こうして夜明けを待っていても、自分をつつむ吉岡門の呪咀や、策や刃ものを磨している気配は、全身に感じている武蔵であった。それは何も、吉野が探りにやって知らせてくれないでも、その前からあらかじめ彼自身は覚悟に持っていたことである。

蓮華王院の境内から、あのまま他へ姿をかくすことも考えないでもなかったが、それでは、連れの光悦へ非礼に当るし、また禿のりん弥へ、帰って来るといった言葉が嘘になる。同時に、吉岡方の仕返しを怖れて姿をかくしたと、沙汰されては心外とも考えたりして、再び扇屋へ戻って、なんのこともなかったように、あの人々と同席していたのだった。それは武蔵として、かなり苦痛な辛抱でもあったし、自分の余裕を示していたつもりであったのに、なんで吉野は、その間の自分の挙止をながめて、未熟だと笑うのか、死相が面に見えるような――と罵るのか。

傾城の戯れ口ならば咎めるまでもないが、なにか心得があっていうことならば、これも聞き捨てにならないことと彼は思う。たとえ今、この家を包む剣の林の中であっても、開き直って、その理を問い究めて見なければならないと、思わず真率な眼を輝かせて、武蔵は強く詰問ったのであった。