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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens
そんな番をしているか」
「知らなきゃいいから、おいらの襟首を離せ」
「ただは離さねえ、こうして離してやる」
耳たぶを強く持って、一廻り振廻して暖簾の外へ突き放そうとすると、城太郎は、
「痛い、痛い、痛い」
さけびながら腰を落し、下から木剣を抜いて、若い男の顎をふいに撲りつけた。
「あっ、このチビ」
前歯を折られて、真っ赤に染まった顎を抑えながら、彼を暖簾の外まで追いかけてゆくと、うろたえた城太郎は、
「誰か来てくれーッ。このおじさんがいけないよっ」
往来へ、こう大声で、危急を訴えながら、持っていた木剣は、その悲鳴とは反対に、いつか小柳生城で猛犬の太郎を擲り殺したような力で、振り向きざま、ぐわんと男の脳天を打っていた。
みみずの鳴いたような、細い呻きを鼻血といっしょに洩らして、若い男は柳の樹の下へヘロヘロと仆れた。
――と、向う側の格子先で見ていた客引き女が、軒ならびの格子へ向ってさけんだ。
「あらっ、あらっ、あの木刀を持った小僧が、扇屋の若い者を殺して逃げたっ」
すると、夜中のように人影のなかった往来に、わらわらと駈け出す者の影がみだれて、
「人殺し――」
「人が殺された」