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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens
「では、お分りにならぬのか」
「とんともう、はっきりと、行く先をいって出た例のないお方で」
それから、番頭は、
「まア、お茶をひとつ」
と、一転して、店からそこまで、歩くにもかなりかかるような奥へ茶を取りにはいって行ったが、武蔵は、ここに落着いている気にもなれない。
やがて、茶を運んで来た番頭に向い、主人の大蔵の容貌や年配を訊いてみると、
「はいはい、道中でお会いなされましても、てまえどもの御主人なら、一目でお分りになるに違いございません。お年は五十二におなりでございますが、どうして、まだ屈強な骨ぐみで、お顔は、どちらかといえば角で赭ら顔のほうで、それに痘瘡の痕がいっぱいござりましてな、右の小鬢に、少々ばかり薄禿が見えまするで」
「背丈は」
「並の方とでも申しましょうか」
「衣服は、どんな物を」
「これは、今度のお旅には、堺でお求めなされたとかいう唐木綿の縞を着て行かれました。これは珍しいもので、まだ世間一般には着ているお方も稀でございますから、主人を追っておいで遊ばすには、何よりもよい目印になろうかと存じまする」
彼の人柄はそれであらまし分った。なおこの番頭を相手にして話をしていたら限りもあるまい。