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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens
……よ、よ、城太さん」
そして両手を顔に当て、さめざめと、泣きぬくのであった。
城太郎は、その姿を見て、ふしぎな恐さに取り憑かれていた。自分も泣きたくなったらしく、
「……ネ。帰ろう」
と、宥めると、
「ああ、会いたい。城太さん――探して来ておくれ。武蔵様を」
「だめだよ、そんな方へ歩いてゆくと」
「――武蔵様」
「あぶないッたら」
この二人が居酒屋の横町を駈け出した時から、すぐ後を尾けて来た牢人者は、その時、狭い濠を繞らした屋敷の角から、嗅ぎ寄るように歩いて来て、
「こら、子ども。……この女は、おれが後から送り届けてやる。お前は帰ってもいい」
と、朱実の体を、いきなり小脇に抱きしめて、城太郎を突き退けた。
身丈のすぐれた三十四、五の男である。かなつぼ眼に青髯のあとが濃い。関東風というのか、江戸へ近づくに従って、ひどく眼につくのが、着物や裾の短いことと、刀の大きいことだった。
「おや?」
見上げると、下顎から右の耳へかけて、刀の切先で撫であげられた古傷が、桃の割れ目のように歪んでいる。
(強そうなやつだぞ)
と思ったのであろう。城太郎は生唾をのんで――
「いいよ、いいよ」