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みやもとむさし
宮本武蔵(五)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(五) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 508,883 characters · 1017 screens
遠くへ馬を繋いで、伊織はまた、そこへ帰って来た。武蔵は、まだ軒下に立っている。
(何を見てるんだろう?)
伊織には、不審であった。
武蔵は、彼の頭に、手を乗せて――
「おまえは、この藁屋の下で生れた。おまえの肯かない気性、屈しない魂は、この藁屋が育ててくれたものだ」
「ええ」
と、武蔵の手をのせたまま、小さい頭はうなずいた。
「おまえの祖父は、二君に仕えぬ節操をもって、この野小屋にかくれ、おまえの父は、その人の晩節を全うさせるために、百姓に甘んじて、若い時代を、孝養に送り、そして、おまえを残して死んだ。――けれどおまえはもう、その親も送って、きょうからは一本立ちだ」
「はい」
「偉くなれよ」
「……え、え」
伊織は、眼をこすった。
「三代、雨露をしのがせて貰った小屋に、手をついて、別れをいえ、礼をのべろ。……そうだ、もう名残はよいな」
いうと、武蔵は、屋内へはいって、火を放けた。
小屋は見るまに、燃えあがった。伊織は、熱い眼をして見ていた。その眸が、余り悲しげなので武蔵は、説いて聞かせた。
「このままにして立ち去れば、後には野盗や追剥が住むにきまっている。それではせっかく忠節な人の跡が、社会を毒する者の便宜になるから焼いたのだ。